ロサンゼルス支局・藤えりか氏による記者有論です。
銃規制の議論が高まる最近、米アクション俳優らを取材する際はこんな質問を投げかけている。「映画は乱射事件に影響を与えると思うか」
(略)
犯罪への影響を立証するのは難しい。だが、全くの無実だとも言い切れまい。
先日、全米ライフル協会の銃器博物館を訪ねた。人気俳優のポスターとともに、映画で使ったのと同じ銃の数々が並んでいた。「かっこいいね」。見学の男性が言った。
この「かっこよさ」がくせ者だ、と私は思っている。
米国の興行収入上位作品は3月初め時点で10本中6本が17歳未満に保護者同伴を義務づけるR指定だ。主役も悪役も多くは男性。時に巻き添えも出しつつ相手をなぎ倒し、「ヒーロー」となるさまを大音響と目まぐるしい画面展開で見せ、感覚を支配する。これぞ「男のかっこよさ」と思わせるのか、劇場で拍手や歓声を送るのは男性だ。
しかも、劇中で銃をぶっ放す背景が年々単純さを増している。米国の映画市場が伸び悩み、新興国に活路を見いだすなか、政治信条を超えて観客をつかむには複雑さはむしろ不要だからだ。
米誌によると、1982年以降の米乱射62件の容疑者は1件を除き男性。多くは社会や組織、友人や家族に疎外されたと感じたとされている。
「拒絶された男性は関心を引こうとして、映画などに表れた『男らしさ』をまねる。それが銃と結びつく」。乱射事件を研究する米ジョンズ・ホプキンス大のキャサリン・ニューマン学部長は言う。
売れている映画の傾向を変えるのは産業にとって難しいことだ。だが、かつて「明日に向って撃て!」で銃撃戦を演じたロバート・レッドフォードも、銃を肯定的に描くハリウッドを批判し始めた。
安直な銃の乱用はストーリーとしても貧弱だ。米映画協会が10年前に投票で選んだ映画史百年のヒーロー1位は、銃なんて持たない「アラバマ物語」のフィンチ弁護士だったことを忘れてはならない。
いくつか指摘したいことがあります。
第一に、藤氏も認めているように、昨今のハリウッド映画の影響で銃乱射事件が起きたと「立証するのは難しい」です。大きな事件が起きるたびに、創作物の影響を指摘する声は繰り返し聞かれます。その説への大きな反論は、事件を起こした犯人が悪いのであって、そういう人物は創作物があってもなくても事件を起こす、というものです。しかし、よく考えればこの反論も根拠を欠くことにかけては同じようなものです。
私は、創作物は現実に影響を与えると思っています。「若きウェイテルの悩み」の影響で自殺者が増えたり、近松の心中ものの影響で心中者が増えたりというのは公然の事実として知られています。創作物に力があれば現実に影響を与えるのは必定だと考えています。
もちろん、個々の事件と個々の創作物に関係があるかどうかは即断することができません。そのため近年のハリウッド映画の影響で銃乱射が起きたのか、もう少し丁寧な論証がないと説得力がありません。
また、影響があったにせよ、創作物を規制していいかどうかは別の問題と考えるべきです。
第二に、ハリウッド映画の影響の話をしているのに、性差別的な発想が見え隠れすることです。実際に62件中61件が男性によるものであるなら、男性が銃乱射を起こしやすいと言っても間違いではありません。しかし、この文章は映画の影響の話をしていたはずです。ここで性差を述べるのは論理がぶれています。
第三に、「安直な銃の乱用はストーリーとしても貧弱だ」との意見についてです。名画といわれる「真昼の決闘」には銃を使って悪漢と戦う保安官が出てきます。藤氏からみると「真昼の決闘」も貧弱で安直な映画なのでしょうか? 違うと言うなら、どこがどう違うのか説明が必要です。
第四に、日本人と思われる藤氏が日本の新聞にハリウッド映画への提案をしていることです。日本では、ハリウッド映画の影響と思われる銃乱射事件は起きていません。つまり日本には全く関係がないことです。ロバート・レッドフォード氏の発言には当事者としての重みを感じますが、藤氏からは尻馬に乗っているような軽々しい印象しかしません。