著:樋渡啓祐
TSUTAYAに公立図書館の運営をまかせ佐賀県武雄市の樋渡市長の奮戦記です。
私は図書館をよく利用しますが、本書を読んでも樋渡市長の改革を支持する気持ちにはなれませんでした。
改革で賛成できそうなのは、開館時間の延長(10時~18時を9時~21時にした)くらいです。コーヒー屋を入れるとか、本屋を併設するとか、音楽を流すとかはピンときません。開館時間にしてたしかにも18時に閉まるのは早すぎるとは思いますが、なにも21時まで開けておくことはないと思います。
しかしながら、改革反対派の図書館業界の大物・慶応大学教授の糸賀雅児氏の発言には驚きました。
「この中で私が注目したいのは、対前年比、来館者数は3.2倍、でも図書貸出数は1.6倍で丁度半分なんですね。来館者数と図書貸出数でみても、来館者数が353%、それに対して178%ですから丁度半分ぐらい。つまりこれは、お客さんはたくさん集まっているけれども、図書館としては本当にこれで成功したといえるかどうか」(P197)
この理屈は、樋渡市長の改革批判の理論支柱になっているそうですが、ただの屁理屈です。
「図書貸出数÷来館者数」は、利用者の傾向をつかむための数字としては意味がありますが、図書館が成功しているか否かをはかる数字ではありません。
図書館の運営としては来館者数が増えることはよいことであり、図書貸出数が増えることもよいことです。大きくなると良い数字を大きくなるのと良い数字で割ってしまうと、その結果は大きくなるのが良いのか、小さくなるのが良いのか分かりません。
例えば、人口あたりの貸出冊数とか、貸出冊数を図書館予算で割った数であれば、成功失敗をはかる指標として使えます。
屁理屈に振り回されている樋渡市長にはちょっと同情してしまいました。
同情はしますが、個人的にはこうしたテンションの高い人間は敬遠したくなります。また、本書の随所に示されていますが、ことあるごとに「僕が」「僕が」とのたまう人間も好きにはなれません。
本書の内容ですが、樋渡市長の苦労話と自慢話が主で、図書館がどう変わったのかという具体的な情報に乏しく客観性がありません。読んでためになるような本ではありません。