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【朝日新聞】終わりと始まり:死地への派遣 国家に権限はあるのか

6月3日朝日新聞夕刊。「終わりと始まり」のコーナーは、作家・池澤夏樹氏の「死地への派遣 国家に権限はあるのか」より

 集団的自衛権を巡る政府のふるまいはどう見ても論理的一貫性を欠くようなのだが、やはりこのまま無理を通すつもりなのだろうか? 道理は引っ込むしかないのか?
 道理のいくつかを述べる。
 彼らが回避しようとしている日本国憲法第九条には「国の交戦権はこれを認めない」という文言がある。そういう規定のない交戦自由のアメリカの軍隊と交戦権を持たない日本の自衛隊が同じ立場で肩を並べて戦えるものだろうか? その場合、憲法は停止状態ということになる。これは国家乗っ取り、すなわちクーデタと同じではないか。
 一九六〇年三月三十一日の参議院予算委員会で時の首相岸信介は「よその国へ行ってその国を防衛することは日本の憲法ではできない」と明言した。「日本は他衛権は持っていない」と。安倍首相は祖父の言葉をどう考えていらっしゃるのだろう?
 ある種の職業は危険を伴う。その職に就く人は危険を承知している。
 例えば、全国で十六万人ほどいる消防士は毎年数名が殉職している。率にして〇・〇〇五%ほど。我々の社会はこれを受け入れている。
 自衛隊員はどうだろう?
 五月二十三日に横須賀で潜水訓練中の海上自衛隊員が死亡した。民間の潜水士だって時には事故に遭うのだから、自衛隊の場合も「ある種の職業は危険を伴う」の範囲に入るのかもしれない。
 一九五〇年に自衛隊の前身である警察予備隊ができてから二〇一三年までの自衛隊員の殉職者数は合計で千八百四十名。年平均で二十九名弱。全自衛隊員の数は二十五万強だから、消防士よりはだいぶ危険率が高いのだが、それでも我々はこの危険率を受け入れている。
 東日本大震災での自衛隊員の殉職は二名と伝えられる。あの時期の自衛隊の活躍は目を見張るものがあったし、現地の人々は心から感謝した。
 (略)
 国家には選ばれた一部の国民を死地に派遣する権限があるのだろうか? 非常に危険率が高いとわかっているところへ送り込むことができるのだろうか? それが自衛のためだと言うならば、国の生存権と個人の生存権の関係についてはもっと議論が要る。
 今の自衛隊員は憲法第九条があることを前提にこの特殊な職に就いたはずである。自衛のための出動はあるが(東日本大震災はその典型)、他国での戦闘はないと信じて応募した。
 だとしたら彼らには次の安定した職を保証された上での転職の権利がある。そんなつもりではなかったと言う権利がある。戦場には殺される危険と同時に殺さなければならない危険もある。その心の傷はとても深い。あなたは見ず知らずの人間を殺せるか?
(略)


池澤氏のいう「道理」の一つ目は、憲法九条があるのにアメリカ軍と肩を並べて戦うというのは、憲法を停止したに等しい、というものです。

しかし、自民党の提案は、自衛隊ができる範囲を拡大しようとしていますが、アメリカ軍と全く同じことをしようというものではありません。つまり、”集団的自衛権”=“アメリカ軍と肩を並べて戦う” ではありません。

池澤氏が、自民党の提案を憲法に抵触する、と考えるのはかまいません。しかし、自民党が言っていないことを捏造して反論するのは「道理」でもなんでもありません。

まして、「安倍首相は祖父の言葉をどう考えていらっしゃるのだろう?」などという問いかけは卑劣です。安倍首相と岸元首相に血縁関係があるという理由で、特別な整合性を求める理由はありません。同じ自民党の総理大臣として整合性を問う、というのであれば無意味な問いかけではありませんが、ことさらに“血”をあげつらうのは品性に問題を感じます。

第二の「道理」として、他国での戦争はないと思って応募してきた自衛隊員に海外で戦うことを命令できるか、というものです。命令するのであれば、自衛隊員には、「次の安定した職を保証された上での転職の権利がある」と言っています。

そんな権利はありません。例えば民間企業が多角経営に乗り出して、入社時になかった業務に社員を就かせるというのは不思議でもなんでもありません。その業務がどうしても嫌ならば辞表を出せばすむことですが、会社は「次の安定した職を保証」なんかしません。池澤氏の主張は、社会常識に照らして、無茶です。

“論理的一貫性”だの“道理”だのと言っているわりには、池澤氏の主張は情緒的・感情的なものでしかありません。
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こんばんは

まあ、朝日新聞は面白いですね。ネタの宝庫です。
総理大臣という地位は一身専業のものであって、相続されない。何ら関係ありません。

この人は憲法の条文の解釈はせず、普通のエッセイを読むような感覚で読んでますね。集団的自衛権は義務ではなくて権利なのに。

>死地に派遣する権限・・・よくもまあ、面白い発想ですね。多分、死刑制度廃止なんかと関係しているのでしょうかね。国家権力により個人の命を奪われる、なんて。

Re: こんばんは

いつもコメントありがとうございます。反響があると素直にうれしいです。
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