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【朝日新聞】(思想の地層)法の支配と原発 残留の義務、誰にもなかった

6月9日朝日新聞夕刊。小熊英二・慶応大学教授の「法の支配と原発 残留の義務、誰にもなかった」より

(略)
 「朝日新聞」が報道した「吉田調書」が反響を呼んでいる。そこで私が注目したのは、福島第一原発所員の9割が、3月15日朝に所長の命令なく無断撤退したことだった。
 この日、福島第一原発所内では毎時400ミリシーベルトが計測された。これは5時間でも致死率5%、8時間では致死率5割に相当する線量だ。
 報道では、所員の無断撤退が問題とされた。しかし本来、民間企業の従業員に、こうした状況で残れと命令する権利は誰にもない。拒否する権利、少なくとも辞職する権利は、保障されなくてはならない。
 このとき所員の9割は無断撤退したが、約70人が残留した。欧米では彼らを「フクシマ50」と呼んだ。それは勇敢さを称えたからだけではない。そんな状況で所員を働かせる人権無視に驚いたのである。
 あるドイツ在住者は、当時の新聞投稿で、この問題への欧州人の反応をこう記している(本紙11年4月11日「声」欄=東京)。「民主主義の先進国で、これが可能なんて信じられない。ドイツ人ならみんな、残って作業するのを断るだろう」「欧州なら軍隊は出動するかもしれないけど、企業の社員が命をかけて残るなんてありえない。まず社員が拒否するだろうし、それを命じる会社は反人道的とみなされる」
 軍人は死ぬ可能性のある命令でも従う旨を契約しているから、政府が軍の核対応部隊などに残留を命令できる。だがそんな契約をしていない民間人に、残留を命じる権利は誰にもないし、またそれに従う義務もないのだ。
 この投稿者は、「日本でこのような議論があまり無かった気がする」と述べている。それはなぜか。日本では、民間企業の従業員が人権無視の契約外命令を受けても、拒否できないことが暗黙の前提とされているからだ。そして日本の原発も、その前提で運営されているのである。
 所員の9割が無断撤退した3月15日、菅直人首相は、東電に「撤退はありえない」と告げた。ただしこれに法的裏付けは何もなく、単なる「要請」である。東京消防庁が出動したのも「要請」によるものだ。
 要請に応じるのは、原則的には、あくまで自己責任による自発的行為である。それゆえ要請に対しては、拒否できる権利が保障される。さもなければ、「法の支配」が確立した「民主主義の先進国」とは言えない。
 だがそれなら、原発事故で誰が最後に残るのか。「日本人は要請に従うはずだ」とは誰も保証できないし、するべきでもない。残留する法的責任を負い、事故に対応できる技術と装備を持つ機関は、現在のところ存在しない。それなしには、冒頭の浪江町民の悲劇を繰り返さないための法制度が、整っていないことになる。
 これは明らかに、法制度上の不備である。菅元首相は、福島第一原発の状況が悪化したら、東京を含む半径250キロ圏の避難が必要になるという試算を示され、国家の政治・経済機能が崩壊する危機感を覚えたという。それを考えれば、これは「グレーゾーン事態」よりも重大な安全保障上の欠陥ともいえる。この点の法整備なしに、原発の再稼働に賛成することは、私にはできない。


ドイツ人ならみんな、残って作業するのを断るだろう」「欧州なら軍隊は出動するかもしれないけど、企業の社員が命をかけて残るなんてありえない」というのは、ドイツ人投書子の想像です。実際に原発事故が起きたときに欧州人がどうふるまうかなど本当のことがわかるはずがありません。3.11以前の日本の一市民に、原発事故が起きたときに発電所にいる電力会社の社員がどうふるまうかを予測できないのと同じです。

欧州の場合は、「軍の核対応部隊」に命令できるからいいんだ、という説明も納得しかねます。いくら訓練を積んだとしても、軍人だけで原発事故に対応できるとは信じがたいものがあります。どうしても民間の専門家が残る必要はでてくるのではないでしょうか。

法律の前提がなければ要請は拒否できる、というのは一面的です。我々は法以外にも、宗教・倫理・道徳といったものに縛られて生きています。違法でないから問題ない、などと開き直る者は社会的に非難されます。これは欧州でも同じだと思います。

あの事故から日本特殊論を展開するのは強引すぎます。

ただし、小熊氏の意見に真っ向から反対しているわけではありません。必要があれば(9割が逃げたというのが事実なら必要だと思います)、原発技術者は事故があった際に残らなければならない、と法律に明記することには反対しません。船舶事故の場合は、たとえ民間人でも乗務員には残って乗客を助ける法的義務があります。同じように、こうした法律の原発版があっても違和感はありません。
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