【朝日新聞】投書:「恋人いないの?」やめてほしい
今週は、群馬県のアルバイトの男性(38)の『「恋人いないの?」やめてほしい』が元の投書です。
若者や独身で恋人のいない人に「なぜいないの? いないならなぜ作らないの?」と聞くテレビ番組などがありますが、大きなお世話だと思います。確かに少子化の進行は深刻ですが、その責任をすべて結婚しない人、できない人に押しつけるのは少しおかしいのではないでしょうか。
街頭インタビューなどで「なぜ恋人を作らないのか理解できない」と言う人がいます。しかし、日本社会と経済が右肩上がりの時代には格差が少なく、今よりも簡単に恋人ができ、結婚できたのではないでしょうか。ところが格差が広がった今は、女性が男性に求める条件は収入面を中心にシビアになっている気がします。
そのために「モテ格差」も激しくなっています。親しい女性が複数いる男性がいるかと思えば、恋愛と縁がなくて「自分はどうせ……」と諦めている男性もいます。
今の時代は価値観も複雑で、様々なデリケートな事情を抱えて生きている人がいることも踏まえてほしいものです。
(7月7日付掲載の投稿〈要旨〉)
経済的理由で結婚や恋愛をしないというのはやや疑問を感じます。日本の社会は今より貧乏な時代はいくらでもありました。それでも庶民は結婚をして子供を産み育てていました。「貧乏人の子沢山」とか「一人口は食えぬが二人口は食える」とかいうことわざもあるくらいです。
しかし、「大きなお世話」というのは実に、もっともな意見です。少子化の責任を個人に押し付けるのはおかしい、という意見にも同意します。
これに対する一般人の反応と。中央大学教授の山田昌弘氏の意見が載っています。
まず、千葉県の大学生の女性(20)は元の投書に同意しています。『個々の事情や価値観も多様です。「ある年齢になればこう思うものだ」という決めつけは、思慮に欠けます。』というのは、実にもっともな見解です。
兵庫の会社員の男性(48)は、「好きな人が現れたら勇気を振り絞ってアタックして下さい。大事なのは失敗してもくじけないことです」とアドバイスしています。元の投書の、大きなお世話は止めてくれ、と言う意見をまるで聞いていません。
愛知県の会社員男性(53)は、独身者が「面倒だから」「一人の方が気楽だから」などと返答するのは、「心の奥では恋人や家庭を持ちたいとひそかに思っている人が案外多いのではないだろうか」としています。
正しいのかもしれません。しかし、独身者が本音を語っている可能性もあります。真摯に他人の話を聞くのであれば、当座は本心を喋っていると考えるべきです。疑うのは疑うに足る根拠がなければいけません。
山口県の会社員の女性(48)は、「経済的格差があるから結婚も恋愛もできないというのは、ただの刷り込みかもしれませんよ」と指摘しています。この点は同意します。しかし、貧乏でも結婚すべき、恋愛すべき、というのもまた刷り込みかもしれません。
山田昌弘・中央大教授(家族社会学)の意見は全文引用します。
欧米では、恋人の有無を聞くとき「恋人がいなければ紹介するよ」という意味が含まれています。でも日本では、聞かれた方は人物評価の対象になっているように感じがちです。だから嫌な気持ちを抱く人がいるのは分かります。
日本でもバブル時代には男女交際が活発でした。将来の経済生活に不安を抱くことなく、多くの人が恋愛を楽しめました。バブルがはじけ、経済的理由による恋愛格差が言われるようになりました。それで「婚活」という言葉を作りましたが、現在の女性はさらに男性の経済力を重視して、交際をためらっているように見えます。
それほどリッチでなくとも、お互いに楽しく生活できるパートナーになれると思います。もっとロマンスを楽しめる社会になればいいと思います。
欧米の習慣は知りませんが、日本で恋人の有無の確認は人物評のためと捉えられているのはなんとなくわかります。そこまでは同意しますが、「もっとロマンスを楽しめる社会」にならなければならない理由が分かりません。なぜ、このような恋愛至上主義を疑いもなく信じられるのか不思議でなりません。
以上、元投書の言っている、「様々なデリケートな事情を抱えて生きている人がいることも踏まえてほしい」というのが正しい、と考えます。